この事件は、裁判所では

令和3年(わ)第89号 とされ、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、詐欺、器物損壊、現住建造物等放火未遂、殺人未遂、殺人の7つの罪で起訴されています。この事件については、新聞等に倣って、七戸知人殺害事件とここでは呼びます。

第1回公判

2024/2/16(金)10:00~

 被告:大橋一輝(かずき)さん

 起訴内容は、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、詐欺、器物損壊、現住建造物等放火未遂、殺人未遂、殺人の7つの罪に問われています。公判では、このうち、殺人と殺人未遂について審議進めるとのことでした。

検察側が想定している殺人と殺人未遂に関する経緯

 被告は重機買取販売会社を経営しており、後に殺されたとされる工藤さんの所属する会社から2020年2月頃に重機を購入したが代金を支払わず5月には別の重機を無断で売却した。その後工藤さんから支払いと重機の返却を求められ、それらから逃れるために殺害を企てた。

殺人未遂事件:2020年9月23日 八戸市江陽の岸壁でブレーキが利かなくなったとされる軽トラックを被告が運転して海へ転落させ、助手席に乗っていた七戸町の工藤勝則さん(当時64歳)を殺害しようとしたが、2人とも助けられた。

  殺人事件:202/12/22 重機返却、代金支払いの要求から逃れるために七戸町の工藤さんの実家において被告から借りたとされる除雪機を使い、被告が工藤さんをひき殺した。

被告の罪状認否

 軽トラックで海中に落ちたのは故意ではなく、ブレーキが利かないための事故であった。また、除雪機に轢かれて死亡したことについても、被告は現場にいなかったため殺人はしていないと主張しています。放火についても容疑を否定。

 詐欺については罪を認めた。

検察側の立証

検察側では、殺人と殺人未遂について立件するために1.ブレーキホース強度試験(引っ張り強度)、2.ブレーキホース強度試験(叩く試験)、3.軽トラックの制動距離試験、4.ブレーキホースの切断試験の4つの試験について説明しました。

1.ブレーキホース強度試験

 まず、ブレーキホースの引っ張り強度試験結果から始まりました。そもそもブレーキホースの切断面からみて(後述ブレーキホース切断試験参照)は鋭利な刃物で切断された可能性が高いというのに引っ張り強度を確認してどうしたいのか良くわからなかった。また、試験では(おそらく)新品のホースを使用しているようで、実際の軽トラックは10万キロ以上(記憶によれば)走行しており、ホースの経年劣化がかなり進んでいるはずであり、この試験の意味するところが益々よくわからない。ちなみに試験は、そのままのブレーキホース、ブレーキホースの直径の1/3程度に切れ込みを入れたホース、1/2程度切れ込みを入れたホースで比較試験をしていた。

2.ブレーキホースを叩く試験 

 ブレーキホースを角材等で100回たたき、その後の破損状況、強度を確認する試験です。これも、何の意味があるのか興味が引かれる?試験でした。人力で叩いていたようなのですが、同条件で行えるのかも疑問でした。また、前の試験と同じように、経年劣化を考慮しているのかの疑問も残りました。

3.軽トラックの制動距離試験

海中転落時の軽トラックは、後輪のブレーキホースが切断された状態だったようなのですが、この場合は後輪のブレーキが効かなくなるが、前輪ブレーキに影響はないとのことでした。そのため検察側は、正常な場合の制動距離とブレーキホースが切断され後輪ブレーキが効かない場合で速度別に制動距離を測り、その結果を示し制動距離は正常な場合に比べて1.5~2倍程度?に延びるが十分に停止させることはできたとしている。

 この試験はとても意味のある試験だと思いました。

 しかし、試験内容を精査すると各条件の停止試験回数は3回で、そのうち異常値(3データのうち1データが他の2データに比べて大きく異なっている値)がある場合にはそのデータを削除して残りの2データで制動距離の平均を求めていました。このような試験の場合、異常値を削除することはあり得るとは思うのですが、3データのうち1データを削除し、残りの2データで平均をとるというのは、やはり信頼性に問題があると考えてしまいます。どうせ、試験するのであればなぜもう少しデータ数を増やさなかったのか残念です。せめて5回行っていれば1データ削除しても平均と呼べる値になったものと考えます。(1回の試験に相当な費用と時間がかかるのであれば別ですが)

4.ブレーキホースの切断試験

 軽トラックの後輪のブレーキホースが切断されていたことから、その切断面と似た切断面を探すための試験でした。切断用の器材として①マキリ包丁 ②糸ノコ ③錆びたカッターナイフ ④ポケットナイフ の四種類を使用して実際にホースを切断して切り口を比較していました。結果としては鋭利な刃物で切断した面と似ているということだったのですが、ここで不思議だったのが ③錆びたカッターナイフ です。なぜカッターナイフだけ錆びていなければならなかったのでしょうか?使ったカッターがたまたま錆びていた? それとも、“錆びた”が今後の公判に影響してくるのか、興味深々です。

 この試験については、4種類の器具を試しているのですが、4種中3種がいわゆる刃物系(マキリ、カッター、ポケットナイフ)であるのが気になります。切断試験を行うのであれば、まず切断原理の異なる、刃物系(カッター等何でもよい)、ノコギリ系(糸ノコ等)、ハサミ系、ニッパー系などの切断方法を比較して、刃物系の可能性が高いのであれば次に刃物系(マキリ、カッター、ポケットナイフ)の中で調べるべきではないかと思われます。