第7回公判 2024/3/1(金)10:00~ 青森地方裁判所 第1法廷

 傍聴人数30名(うち記者席7名)

殺人、殺人未遂についての検察官の中間論告と弁護側の中間弁論

検察側の中間論告と弁護側の中間弁論が行われた。検察側は軽トラック海中転落を故意による殺人未遂、被告による殺人未遂と殺人を主張し、弁護側は共に事故であったと主張した。

 実はこの事件はあまり証拠らしい証拠がないのではないかと感じる。

 軽トラック海中転落に関する殺人未遂の証拠

①軽トラックの切断された後輪ブレーキホースと切断を試みたとされるサイドブレーキワイヤの外皮の傷

 海中から引き揚げられた軽トラックの後輪ブレーキホースが破断し、サイドブレーキワイヤにも切断しようとしたような外側の被膜に切れ込みが確認されており、検察は被告がブレーキ事故を装うために切断したものだとした。一方弁護側は、1週間ほど前に山林を走行した際の枝や石にぶつかって破損したものだと主張した。海中転落後に警察による検分後の警察の結論は事故としており、ブレーキホース破断は走行中に他のものとぶつかり破損したと結論づけており、弁護側はこれを理由として人為的切断ではないとしている。しかし、ブレーキホースの切断面はだれが見ても鋭利な刃物で切った断面であり、最初の警察の判断に大きな問題があった。また、ブレーキホースとサイドブレーキワイヤは共に上面から切れ込みが入っており、この点でも人為的と言ってよい。

②係船柱に衝突した際の軽トラックのブレーキ痕

 軽トラックは海中転落前に一度漁港の係船柱(船のロープをひっかける鋼鉄製の曲がった杭みたいなもの)に衝突しており、衝突前の急ブレーキでブレーキ痕が残されている。これについて検察は、十分ブレーキが効いていた証拠だとしている。

実は証拠らしい証拠はこれぐらいじゃないかと思われる。

その他、怪しい背景、行動はたくさんあって

①被告は被害者の勤める会社へ約1000万円の代金未支払い、ホイールローダーの横流しをしており、支払いと返却を迫られていたが履行の目途はなかった。

②ホイールローダー返却のためとウソにより被害者を八戸漁港までつれてきた。

③海中転落直前に自分の携帯電話と財布を同行していた妹の乗るプリウスへ預けていた。

④24日に引き上げた軽トラックについての警察の見分が終わると、その日のうちに保管してあった十和田市のダイハツから無断で軽トラックを運び出し、そのまま廃車処分した。

⑤被害者の家族に被害者と八戸に行った理由は被害者がタコを購入したいからだとウソをついた。

などなど

同じように除雪機による殺人に関しても事故ではなく何者かによる殺人事件である、そしてその犯人が被告であるという証拠も少ない。

事故ではなく殺人だという証拠

①被害者が除雪機に轢かれている状態(事故ではこの状態にならない)

 被害者はうつ伏せ常態で上半身に除雪機後部が乗り上げている状態で発見された。このため、検察は、後退する除雪機の地面から除雪機本体の隙間が狭く、通常の後退ではうつ伏せで倒れている被害者の頭を乗り上げることはできず、何者かが除雪機後部を持ち上げたとしている。(除雪機の専門家の話では除雪機クローラーの後部に雪だまりがあり除雪機は前進しクローラーが空回りしていたはずと証言しており、食い違う 第5回公判参照)。一方弁護側は、過去の事故例では頭を機械側に向けて転び巻き込まれたケースがあること、雪上実験では人形の重量が不明であること、重量を調整した人形を使った実験では雪上ではなくブルーシート上での実験であり、現場を適切に反映していないため後退する除雪機がうつ伏せの人の頭に乗り上げないとする結果は無効であるとした。

②シャーボルトの見つかった位置が変

 現場の除雪機は、オーガ(除雪機前方で雪を掻く回転盤)を止めているシャーボルトが破損し、オーガは空回り状態であった。このオーガと回転軸を止めているシャーボルトはオーガに異物が挟まった場合に機械本体が壊れないように破損し、軸から外れてオーガは空回りするようになっている。オーガの上面、側面、後面はオーガカバーで覆われており、シャーボルトが破損した場合にその破片は前方に飛ぶはずであるが、現場では除雪機左後方から見つかっており、破損時には除雪機は別の方向を向いていたと考えられる。中間論告ではオーガが破損した理由やシャーベルトが見つかった位置に関して全く触れられなかった。

③被害者の頭頂部の骨折の理由がわからない

 第5回公判で除雪機の専門家は被害者の頭頂部の骨折が除雪機の乗り上げ事故では起こりえないと証言していたが、この点についても中間論告で触れることはなかった。

④約70cmのバール

 現場では、雪上に約70cmのバールが見つかっているが、これについても中間論告では全く言及されなかった。

実は証拠らしい証拠はこの程度しかないのですが、被告の怪しい背景や行動は数多く確認されています。

①被告は被害者の勤める会社へ約1000万円の代金未支払い、ホイールローダーの横流しをしており、支払いと返却を迫られていたが履行の目途はなかった。

②被害者は被害者の実家の除雪をするために除雪機を借りにきて事故にあったとしているが、被害者の実家は被害者兄がトラクターで除雪するためそもそも除雪機を借りる必要はない。

③被害者は勤務時間中であり、勤務時間中に私用で除雪機を借りに行くことはない。

④被害者は、事件前日に電話で被告に対して、代金を支払わないことなどを警察に相談する旨伝えられていた。

⑤事務を手伝う妹に対して急に電話で出勤前に買い物を依頼し、妹の出勤時間が遅れた。

⑥事件前日に被害者の事務所が火事になり、現場で被告が目撃された。

⑦事件後に被告が被害者家族に第1発見者は妹とウソをついた。

 中間弁論で弁護側は、被告は除雪機が乗り上げた現場にはいなかったので犯行は不可能だとした。時間を追ってみると、当日8:55に除雪隊が現場付近をとおり被告と被害者が一緒にいるところを確認している。その後、妹が9:25分頃現場事務所に出勤したがその時点では被告の乗っているキャラバンは現場になかった。その後被告はキャラバンに乗って現場に来てガソリンを携行缶につめるため小屋に行ったところ異常なエンジン音を聞いて除雪機に被害者が下敷きになっているのを発見し、妹に声をかけ9:31に119番通報した。事件はこの8:55~9:25の間におきており、この間に被告は被害者の実家の除雪場所をキャラバンに乗って確認しており、事件に関わることはできなかったと主張した。

感想

 被告と被害者の関係、事故前、事故、事故後の状況から考えると被告の犯行が強く感じられるが、被告は完全に否認しており、決定的な証拠も無いように感じられる。また、海中転落、除雪機による死亡の両方とも警察により一度は事故として処理されており、課題がある。現場の状況を確認すると、海中転落、除雪機による死亡事故とも不明な点が多く残った状態で、事故として処理されてしまったことに問題があったと感じる。被告が健全否定している状況で、これらの証拠を使って果たして有罪に持っていけるのか、やや疑問が残る。

 また検察、弁護側両者の意見を聞いていて、弁護側の話し方(内容ではない)に説得力があった。検察側は資料を棒読みする傾向にあり、裁判員裁判の場合、裁判員へ自分の意見を届けるという意味で、話し方の技術も重要ではないかと感じた。もしかしたら、証拠的にあまり自信がもてずあのような話し方になってしまったのかとも感じてしまう。

 約70cmのバールが雪上に転がっていたことについては、検察側の意見の場面で被害者をうつ伏せ常態に倒すために使用することもできた程度の発言で、バールと頭のケガ等については、特に言及しなかった。また、検察ではうつ伏せで倒れた被害者を除雪車をバックで待ちあげながら乗揚げさせて低酸素で死亡させたとしており、前述のバールや、シャーボルトの見つかった位置と除雪車の向き、除雪機が被害者の下半身も乗り上げて通り過ぎたことを示すズボンにのこるクローラー痕についての言及もなかった。結局多くの謎、未解明な部分を残したまま、殺人、殺人未遂については終わった印象だ。